朝ドラ「あんぱん」では、第69話で岩男が仲良くしていたリンに殺されるシーンが描かれました。
実はこの話、やなせたかしさんの著書「チリンのすず」という絵本が題材とされているようなのです。
この記事では、それぞれの内容と、この話を通じてやなせたかしさんが伝えたかった「正義」への想いについて迫ります。
岩男とリンのエピソード
朝ドラ『あんぱん』第12週では、兵士・岩男と中国人の少年・リンとの心の交流が描かれました。
岩男は宣撫班の兵士として紙芝居巡回を行い、現地の少年リンを助手としてそばに置きます。
言葉は通じないながらも、ふたりはまるで親子のような関係に育っていきます。
ある日、岩男は周囲にこう語ります。
「あの子を見ると、なんか心の中が……ふわーっとあったかくなるんですよ」
しかし、その穏やかな関係はある真実によって崩されます。
リンは、かつて岩男たちの部隊が襲撃した村の生き残りで、家族を殺された少年だったのです。
そしてついに、リンは岩男に銃を向けます。撃たれて倒れた岩男は、こう言い残しました。
「リンはようやった……」
「あれは、あの子がやったんじゃない」
岩男は最後までリンを責めず、むしろその手を受け入れるのでした。
やなせたかし作「チリンのすず」が元ネタ
このエピソードは、やなせたかしの名作絵本『チリンのすず』を強く思い起こさせます。
物語では、オオカミに母を殺された子羊のチリンが、その仇であるオオカミに弟子入りし、やがて復讐を果たすという構成です。
「あんぱん」に登場する少年「リン」の名前は、この絵本の主人公の羊「チリン」からつけられたのでしょうね。
チリンが初めてオオカミに弟子入りを申し出たとき、オオカミはこう感じます。
「心の中が、ふわーっとあたたかくなる」
引用:やなせたかし「チリンのすず」
この「ふわーっとあたたかくなる」と言う表現、第56話で岩男も口にしていましたね。
誰からも恐れられていたオオカミにとって、弟子にしてほしいと願われたのは生まれて初めての経験でした。
それまで強情だった岩男も、結婚し、まだ見ぬ我が子に重ねたリンの存在は、オオカミにとってのチリンと同じものだったのでしょう。
やがて3年の修行の末、チリンは強くなり、ついに仇討ちの時を迎えます。
角を突き立てられたオオカミは、こう語ります。
「ずっと前から、いつかこういう時が来ると覚悟していた。お前にやられて良かった。おれは喜んでいる」
引用:やなせたかし「チリンのすず」
命を奪われながらも、オオカミは愛弟子に討たれることを受け入れたのです。
まさに、岩男がリンの仇を受け入れたことと重なります。
岩男とリンのエピソードは、まさに「チリンのすず」のお話に重ねられているのですね。
やなせたかしが伝えたかった事
やなせたかしさんは、生涯を通じて「正義とはなにか」「悪とはなにか」という問いを作品に込めてきました。
彼はこう語っています。
人間にも悪党役の人がいます。でも悪人の中にもある種の正義感はあって、完全な絶対悪というおものはありません。
悪者は最初から最後まで完全に悪いわけではありません。
引用:やなせたかし「わたしが正義について語るなら」
『チリンのすず』における復讐と師弟の葛藤、そして『あんぱん』における岩男とリンの対峙は、加害と被害の単純な構図を超え、人間同士の“心の通い合い”と“赦し”を描いています。
戦争体験を経たやなせが見つめたのは、「敵」であっても、そこに人間としての思いがあるということ。
それはアンパンマンにも通じる、“本当の優しさ”への問いかけでもあります。
アニメ「チリンのすず」が放送!
大人気作となった絵本「チリンのすず」。
なんと、アニメ映画「チリンの鈴」として過去に公開さえたものが、NHKで放送されます。
深夜放送となりますが、あんぱんファンとして見逃せませんね!
まとめ
朝ドラ『あんぱん』で描かれた岩男とリンの物語は、やなせたかしの絵本『チリンのすず』と深く重なります。
どちらも、復讐の対象である存在に対して、やがて愛情や敬意を抱いていく師弟の関係が描かれていました。
「心の中がふわーっとあたたかくなる」や「お前にやられて良かった」といった共通する言葉には、単純な善悪を超えて、人と人との心の通い合いを見つめるまなざしが感じられますね。
やなせたかしさんは、戦争や暴力の中でも人間の尊厳を信じ続け、その複雑な感情を物語に刻み込んでいたのでしょう。
物語は、第13週から戦後の時代へ突入します。
ここから、やなせたかしさんがどのように生きるのか、ドラマを楽しみにしたいですね。
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